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歴史のifを描き尽くす歴史改変SF小説の名作

歴史

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歴史改変SFとは

歴史改変SFは、思弁小説(あるいはサイエンス・フィクション)と歴史小説のサブジャンルであり、実際の歴史とは異なる歴史の経過を経た世界を描くものである。

多くの作品は実際の史実に基づき、その上で我々の歴史とは異なる発展をした社会や政治や産業の状況を描くことを特徴とする。

プロテウス・オペレーション

1974年、世界はかつてない暗黒時代を迎えていた。第二次大戦で圧倒的勝利をおさめたナチス・ドイツが、ヨーロッパはおろかアジアやアフリカ、さらには南アメリカまで支配していたのだ。ナチスの魔手は次第にアメリカ合衆国へと伸び、ふたたび戦争が起こるのは必至だった。そのアメリカに唯一残された最後の希望が《プロテウス作戦》だ。―過去の世界に選りすぐりの工作隊を送りこみ、歴史の進路をねじ曲げて、いち早くナチスの野望を叩きつぶすのだ!かくして《プロテウス部隊》は勇躍時間の流れに飛びこんだが…。

J・P・ホーガンのヒューマニズムは楽観的で、しかも冷徹である。彼のSFはどれもとぼけた書き方で「こんな風にうまくいくわけないだろ!」とツッコミたくなる。でもたま~に、ついうなずいて「人間って大丈夫だよな」と思ってしまう。それを楽しみに読むのだ。

確かにこの辺りから作品に政治色が濃くなって、人によってはその辺りが受け付けない部分もあるかもしれないけど、ワタシがそれさえも目をつぶる気にさせられるのは、やっぱり、話の節目節目の盛り上げ方が上手いからだろうなぁ。作中の表現を借りれば、「あらゆる希望が一方の手の中でひと吹きの煙と共に消滅し、そのあと何か他のものがもう一方の手の中に隠れている」といったあんばい。

ニッポン太平洋帝国

1930年代末、近衛首相の特使としてベルリンに赴いた島津男爵は、歴史を変 える決断をしようとしていた。大日本帝国はナチスと手を切り、中国大陸をあきらめて、南進政策を取るのだ。だが、それをきっかけに、島津家の人びとは嵐のような運命に呑みこまれていく...

もうひとつの太平洋戦争が戦われた並行世界の物語、というイメージだが、本書から受ける感触は、カズオ・イシグロが書いた日本物(たとえば『浮世の画家』)に近いようだ。

作者が創造した登場人物は、それぞれ深い苦悩を背負っており、それは西洋対東洋(日本)、親対子、貴族対庶民といった対立関係の中で顕在化する。異質な美意識で描かれた、アメリカ人によるこの日本人像こそ、並行世界そのものと言えるかもしれない。

ディファレンス・エンジン

一八五五年、ときは産業革命–。そして一九九一年。蒸気コンピューターが究極のプログラムを走らせるとき、「彼」は自意識を持ち、その記憶を語りはじめる…。

結局、ばら撒かれた謎はすべて解き明かされたわけではなく、なんとなくとっ散らかったままの印象もあるのだが、それでもやっぱり最後の2ページがすべて。うまく説明できないけど、この2ページに「ディファレンス・エンジン」の世界が丸ごと詰まっていることが、すとんと腑に落ちる。

歴史改変・カオス・人工知能、そして蒸気コンピュータが世界を計算するそれはまぎれもなくサイバーパンク。この作品はまず第一にサイバーパンクなのであって、スチームパンクなどと呼んではならぬのです。

高い城の男

アメリカ美術工芸品商会を経営するロバート・チルダンは、通商代表部の田上信輔に平身低頭して商品の説明をしていた。ここ、サンフランシスコは、現在日本の勢力下にある。第二次大戦が枢軸国側の勝利に終わり、いまや日本とドイツの二大国家が世界を支配しているのだ–。

ディックの描く世界は「今」よりもさらにもう一二歩、世界の破滅に近い世界である。このことは彼のどんな作品にもあてはまる。
その中で登場人物は、どんな身分、性格であったとしても絶えず危機的状況につつまれ、苦悩し、試練にさらされ、あるいは美しく、あるいは醜く生きている。あるいは死んでゆく…

黒い時計の旅

仮に第二次大戦でドイツが敗けず、ヒトラーがまだ死んでいなかったら…。ヒトラーの私設ポルノグラファーになった男を物語の中心に据え、現実の二十世紀と幻のそれとの複雑なからみ合いを瞠目すべき幻視力で描き出した傑作。

現実の二十世紀と幻想の二十世紀を仕切る境界線は、必ずしも明確ではない。メビウスの輪をたどる指が、はじめは表をたどっていたはずなのに、いつのまにか裏側に達しているように、「黒い時計の旅」でも、現実はいつのまにか幻想に侵犯され、幻想もまたいつしか現実が浸透している

柴田元幸の評

ファーザーランド

ベルリン、1964年。ヒトラー総統75歳の誕生祝賀行事を一週間後に控え、ジョゼフ・P・ケネディ米大統領がデタント交渉に訪れようという冬の朝、老人の死体が湖畔で発見された。男は古参のナチ党員で…。第二次世界大戦勝利から20年、ヨーロッパ全土を支配下におさめる大ナチ帝国を舞台に展開される気宇壮大な政治ミステリー。

著者はジャーナリストとしての経験を元に実在の人物に対しては一定の時期までは史実通り、実際の公文書をもとに(作品世界の)歴史に埋もれた影の部分を曝け出すそのリアリズムには圧倒されました。

主人公が限られたヒントから歴史の闇を暴いていくさま、そして当然主人公を狙うゲシュタボとの攻防も含めて政治サスペンスとして優れていて非常に読みがいがあります。

ユダヤ警官同盟

安ホテルでヤク中が殺された。傍らにチェス盤。後頭部に一発。プロか。時は2007年、アラスカ・シトカ特別区。流浪のユダヤ人が築いたその地は2ヶ月後に米国への返還を控え、警察もやる気がない。だが、酒浸りの日々を送る殺人課刑事ランツマンはチェス盤の謎に興味を引かれ、捜査を開始する―。

本書において扱われているユダヤ人、もしくはユダヤ教のテーマについては、あいにく私はWikipediaに載っている程度の知識しか持ち合わせてません(苦笑)。なので正直分からないことだらけでしたが、歴史改変ものとすることによって、現代の政治的な主義主張から距離を置いてそうしたテーマについて語ることには成功していると思います。

鷲たちの盟約

1943年、アメリカ合衆国。10年前に大統領就任目前のルーズヴェルトが暗殺され、未だに大恐慌の悪夢から脱せずにいるこの大国は、今やポピュリストに牛耳られた専制国家と化している。ポーツマス市警のサム・ミラー警部補はある晩、管内で発見された死体の検分に向かうが、その手首には6桁の数字の入れ墨があった――。

▼外部リンク 出典元

歴史のifを描き尽くす歴史改変SF小説の名作



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